兄妹








「どけ兄貴」
「実の兄に向かっていい根性してますねシスター。素敵だな」
「いいからどけって。テレビ見えない」
「中学生なのに『ミ○モでポン!』とか見てるんじゃないですよ妹。いささかシュミが少女に過ぎる。そんな性格でもないくせに。……痛い痛いやめてください。健康スリッパの爪先はマジ勘弁。どきますよ、どくから。どっこいしょ」
 
 ぼすんと俺が今まで寝転がってたソファに倒れ込む妹。
 
「相変わらず可愛げないですね妹。しかし膝丈のスカートを選択したことは評価したい。倒れ込んだ時中身が見えました。ははは、熊のバックプリントとは可愛いですね。でも君の拳は実にベアーなのでまぁ似合ってると言えなくもない」
「あとで百叩き」
「痛いので勘弁です」
「勘弁しない。それと何か生ぬるいんだけど、ここ」
「そりゃ俺が今まで寝転んでたわけですから。こんな夏にクーラーもなしに半裸で寝転がってたら汗も滲み込むというものです」
「シーツを変えろ。クーラーをつけろ。そして服を着ろ」
「シーツの代わりにタオルケットをあげましょう。クーラーのリモコンは君が左手を伸ばした先にあります。そして残念ながら俺の上の服は全部洗って干してるので今は着るものがありません」
「じゃあせめてあたしの視界に入るな。ていうかここ出てけ」
「部屋に戻っても暇なので一緒に『ミ○モ』でも見るつもりなんですが。ちなみに今は君の後ろに立ってるので視界には入ってません」
 
 無言で左手を伸ばすマイシスター。しかしその手はリモコンに届かない。そんな様子を見守りつつ俺は適当に椅子を引っ張って座る。
 位置関係は居間の中心にテーブルを置き、北にテレビと廊下に続く出入り口、東にソファと妹、南に俺と椅子。
 
「……うそつき。手を伸ばした先にねぇだろリモコン」
「目が怖いです見ないでください。そんなに俺の裸体を視姦したいですか。痴漢? あ違うか痴女か。……ああごめんなさい冗談だってば。ちなみにリモコンですがちゃんと手を伸ばした延長線上にあります。届くと思ったんだけどなぁ。ちょっと君の手の長さを測り損ねました」
「馬鹿兄貴。死ね」
「キツいですね。俺の心が震えます。心も身体も弱いんですからちょっとは手加減しろよ妹」
「イキナリ素に戻ってんじゃねぇよ糞兄貴。妹の手の長さぐらい把握しとけよ馬鹿」
「素じゃなくて効果的な演技というヤツです。演技じゃないですかそうですか。把握しとけってあなた、してたらしてたで怒るじゃないですか。例えばブラのサイズ言い当てた時とか凄かったですよね逃げる俺にナックルパート、問答無用待ったなし、情け無用容赦なし。マジ痛かったんですよあれ本当」
「…………」
「いやごめんもうあの時のことは言いません。ブラのサイズも忘れた。忘れました。ぶっちゃけブラする必要ないんじゃないかってことも──うわぁ数字は忘れたんですってば本当。……それにしても君は二言目には罵詈雑言ですね。もう少し兄に対する敬意とかないんですか」
「…………」
「無視かよ」
 
 三十分経過。
 
「電波妖精が飛び交うアニメが終わったようですね妹。その間に俺は飯の準備もしてました。食う?」
「食う」
「いただきます」
「いただきます。……何これ」
「今日のメニューはミートボール丼です。市販の肉団子を甘辛く味付けして卵でとじてみました。理論的には牛丼や豚丼と大差ないですよ」
「肉団子って時点で大差じゃねぇか」
「同じ肉です。次は魚肉ソーセージにしますよ?」
「悪かったマジそれは勘弁してください、不味そう」
「ははは素直でよろしいですね妹。俺の唯一のアドバンテージが料理ってのも情けないですが、そんなことより日頃の暴力に対して毒を盛らない俺に感謝して欲しいものです」
「毒を盛らないのが普通だろ馬鹿。殴られたら殴り返せよ。また殴り返すから」
「それじゃ意味がないし第一敵わないので遠慮します。てゆーか妹殴るほど落武者してませんよ」
「……落ちぶれてませんよ?」
「楽しい言い回しです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」 
「ところで糞兄貴」
「呼びかける時くらい余計な形容詞はつけないでください。しかも今は飯時です。──で、何」
「恋人とか居る?」
「……………………………………とうとう馬鹿になったか。嗚呼、馬鹿って呼ぶほうが馬鹿なんだよと幼少時から教え込んできたのになぁ」
「人を勝手に基地外扱いしてんじゃねぇっ」
「ミートボールは投げるものじゃないです妹。あとでちゃんと拾ってくださいね。ちなみに恋人は不在です」
「そうか」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ではここでお兄ちゃんは色々と推測してみようと思うがいいですか?」
「────」
「沈黙と肯定は同義です妹。ということで言ってみますが、妹、君はもしかして僕が好きなんですか」
「……縊り殺すぞ?」
「小首を傾げないでください猫撫で声使わないでください微笑まないでください怖いですマジで怖いです」

 笑う妹ビビる俺。和やかな夕食の雰囲気です。
 
「ところで縊り殺すというのは絞殺に当たるので打撃主体の君には似合わないかと。あ、いやだからって殴り殺すのも勘弁ですよ? ていうか殺さないでくださいまだ生きていたいから。でも何でそんなこと訊くかくらい教えてくれたっていいと思います。答えた側の権利として」
「……クラスのダチがさー」
「ああ、君はそんな乱暴な人間だというのに友人多いもんな。姉御肌ってヤツですか」
「殴るのは後にしてやる。──多分兄貴も知ってると思うけど、佳奈。一度うちにも来たし。覚えてるか? あのツインテール」
「あああのふにゃっとした子か。可愛いよなぁ仔犬系で。うん。で何で君の眉間には皺が一本増えてるのかな」
「何でもねぇよ。でその佳奈が兄貴が好きだと」
「そりゃ無謀だなぁ。絶対後悔すると思うけど、その子」
「あたしも思う。こんな糞兄貴のどこが──……いや、傍から見れば人畜無害だもんな。この馬鹿」
「何かまた失礼なことをぼそぼそと言ってるみたいですけど、俺はいつだって人畜無害ですよ?」
「どこがだ猫被り。勿論あたしも引き止めた」
「けど聞かないのが乙女というものですねははは。で、その子と見合いでもしろと」
「明日な。うちに来るって」
「そうか。ところで僕は今日から友人宅に三泊するほどするのでよろしく」
「脚折る」
「わぁそれは勘弁だ。ていうか家族間でも充分傷害事件は通用するよ?」
「妹を警察に突き出すような人間かよこのキモシスコン」
「それは事実なので何も言わない。てゆーか俺にも好きな人くらいいますよ」
「…………え、マジ?」
「微妙な間がやけに気になりますが問いませんよ? ちゃんと好きな人くらいいるってば」
「誰」
「いや答える義務なんてないし」
「誰」
「いやあの首に箸を突きつけないでくださいそんなんでも刺さると死にます」
「誰」
「言わないってば。どっちにしろそのうち知ることになるからそれまで待てと。……で、ともあれ明日来るんだな?」
「……ああ」
「じゃあ丁重に断るとするよ。フォローよろしく。俺、女の子の扱い方とか知らない」
「うそつけ千人切り。何人女犯したよこれまで」
「うわいつにもましてセメント発言だなぁ。ちなみにそんな経験豊富なわけでもないぞ」
「…………」
「いやどうしてそこで止まるかな。いつもみたく俺を罵ったらどうかね妹」
「──経験は、あるんだ」
「まぁ、ある」
「そう」

 そう言って食器を片付けもせず出て行く妹。早足です。
 いまいち行動原理が読めない妹ですが愛してます。女として。インセストタブーなんか知ったこっちゃありませんははは。
 ともあれさっきの行動が照れ隠しだとかそういうものであることを願いつつ、俺は食器を片付けながら明日尋ねてくる少女をどのように断ったらいいか思案します。
 ところで人の家にわざわざ訪ねてきて告白するってのもどうかと。逃げ道ないだろうに。まぁそれ以上に逃げ道ないのが妹に恋してる俺ですが。
 現状にも満足してますけどね。そのうち告白しようかと思います。
 
 
 
 
 
 
 
 劇終。
 
 
 
 
 









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