in Graveyard
気が合う者同士だったように思う。
会って──逢って間もないことだが奇妙にもそう感じ、そして相手が同じことを思っていることすら分かっていた。
共感というより共有に近い。意識、雰囲気、思考回路、そういったものがどこかで重なり合っていた。
だからだろう。
彼と彼女が出会ってすぐ殺し合いを始めたのは。
(例えばここに壊れた世界がある。)
それは誤解ではないし、否定でもない。
双方共に正答としてそれを導き、言外の領域で肯定した。
近親憎悪でもない。似通っていたから殺すなどというそんなつまらない理由はありえない。二人とも自己性を他人に脅かされるような生き方はしていなかった。
そう、もし二人が仲間同士だったなら、アイコンタクトすらも必要なく最高で最強のチームワークを発揮できると互いに理解していた。
その前に敵は無く、
その後に敵は亡いと。
なればこそ位置を違え向かい合う場所に立つのであれば、必然、殺し合う。
理解し合ったが故に、目の前のソレが敵であるということに気づいた。ならば自分達は戦士である。戦士であるなら己に架した誓いに従い、敵と認めたものと戦わなくてはならない。
数値は同じ。乗算すれば億をも超える単体は、減算すれば零へと還る。
誤解でもない。否定でもない。ただ相手が敵だから斃す。
それが戦場の契約。戦場に大義は無い。感情も嗜好も贅肉に過ぎぬ。個人の意志も意思も、勿論無意味であると何よりもその二人は理解していた。
(大地は荒れ割れ枯れ崩れ、海の水が穏やかたることはない。煮え滾る火焔が常に何処かに在り、吹き荒ぶ風は疫でしかない。)
カソック姿の彼女が背負うのは二本の長剣。白と黒、強烈なコントラストを放つそれは斜め十字に彼女に背負われ、それは二千年前十字架を背負い丘へと登った聖人を彷彿とさせよう。白の剣は両刃の剣であり、刀身の溝に刻まれた幾何学模様と控えめな装飾により、どこか神聖な雰囲気を纏っている。対し黒い剣は片刃で反りが大きく巨大な鉈のようで、無骨で光を弾かない。白と黒は、あたかも聖剣と魔剣であった。
その剣は抜き身だった。刀身をぐるぐるとベルトで巻いて無理矢理固定し、鞘はない。当然だ。それが彼女の目指した在り方そのものであるが故に。
鞘から放たれた剣は敵を討ち果たさずして鞘へと還ることはない。
故にその剣は。戦うと決めた彼女の誓いによって、彼女が死さぬ限り鞘へと収まることはない。
長いそれを丸く束ね上げた黒髪。白く、細い顔に嵌め込まれた緑と紺の瞳を細めて彼を見ていた。
ぱり、という音が彼女の足元から聞こえた。音は迸る紫電の声。彼女の足元で、小さな雷の蛇が波打っていた。
(そんな場所にさえモノは生きる。醜く、意地汚く、しかしとても儚くとても尊い生きたいという願いがカレらを生かす。)
薄汚れた軍隊のズボンとコンバットブーツ。上半身を黒のタンクトップに身を包む彼は、左の腰に三本の鞘に収められた刀を携えていた。鞘は全て水平に寝かせるようにベルトで二箇所束ねられ、きっちりと固定されていた。拵えの立派なそれらには、何故か悉く鍔がなかった。
両の腕には巻き付き締め上げる黒蛇のような刺青。五指の先から始まり腕を遡り肩に至り首にまで食い込んだそれは何かの魔術的要素を感じさせる。否、事実それは呪紋であり、呪詛だった。彼の、何に代えても求めた力そのものとして、己を蝕む呪詛としてその身に刻んだ痕だった。
日に焼けた顔。砂に塗れたざんばら髪から覗く瞳は、融けた鉄のように鮮やかな朱。
ごきん、という音は彼の左手の鳴き声だ。それは
顎
(
あぎと
)
であり、牙である。彼はその手で以て万物を砕き、万象を潰してきた。
(生きるからには犠牲を伴うというのは当然のことだ。世界には限りがあり、それは人数分用意されていない。有限。)
対峙する。
それはとても静かだった。交わす言葉も無い。交わされる視線も無い。双方佇み瞼を閉じていた。
いつこの足を踏み出せばいいかなどという問は愚問である。そのような問答、彼らに限って必要なかった。
殺し合いは視認した時点から始まっている。蟲の一匹に至るまで二人の間で漂白され透徹となる空気から去っていった。
(そも人間とは戦いの歴史である。命、土地、金、人、
賭け
(
ベットす
)
る物は様々だったがまず何かしらの戦いがありそれによって人は歩を進めてきた。)
彼と彼女の、これが最初の邂逅で最初の殺し合いだった。
(────今のように。)
sudden-death
二人が炸裂する。
直線距離約二〇直後にゼロ。彼女が執るは十字に背負う二本の剣。容赦は皆無、躊躇は無用。左手に白、右手に黒、強烈なコントラストを放つそれを一度に叩きつける。
視界を四分割する二閃をしかし彼は避けない。霞む右手が腰へと伸びて、三本の刀を一度に抜いた。
彼女が二閃なら彼は三閃、人差し指から小指までの四指の間に柄を挟んでの抜刀は、真っ当な人間に可能な業ではない。
正しく爪、巨大にして強大な竜爪の如くに振るわれた三刀は、がきんと力任せに二色の両剣を弾く。
体勢は崩れない。軌道を歪められた両腕のうち黒剣が横薙となって彼を襲う。振り切った勢いで独楽のように廻る彼は身を沈めその頭上を黒い旋風が通り過ぎた。巻き込まれた髪が数本はらりと舞う中で彼は無手の左手、その五指をコンクリートの大地へと突き立て振り上げた。
彼女ごと大地が引っぺがされる。
傾ぐ足場を彼女は飛び退き、直後ばきんと灰色の板が地を離れた。三尺四方はあるそれを、彼は距離を取った相手へと凄まじい膂力を以て投擲する。
轟、と唸りを上げて飛来するそれは、直撃すれば人間の胴体程度容易く両断する。弾指の秒を待たずして目の前まで迫った灰の岩板をしかし黒い鉈が砕き、──その時には、既に彼の右の竜牙がコンクリート塊を突き刺し持ち上げていて。
引かれ、砲撃の威を以て炸裂する左の拳は正確に岩塊の中心を捉え砕いて散らす。
飛礫は乱打となって彼女に迫る。先に倍する速度のそれは最早刹那の域、その剣を振るうのにも足らぬ時間の中で、だが彼女は避けもせず左手の白を大地に突き立てる。断、と手から離れ立つそれは墓標ではなく、
「──"
大鹿
(
エオロー
)
=I」
走る緑光、鍔に象嵌された碧玉が光輝し、半球状に展開したそれが迫り来る魔弾の群全てを粉と破砕した。彼女自身は一つたりとも飛礫を受けることなく立っている。──墓標ではなく、真実聖域の護りであった。
カソックの裾が波を打つ。逆手に聖剣を引き抜き、膝より低く沈んだ身体が地を這う蛇のように彼へと迫る。がりがりという音は地に身を埋めながら突き進む黒剣が奏でる音色。大地を深く分かちながら進むそれは鮫の如くに。
がん、と振り上げられた魔剣は、砂と礫を飛沫の代わりに、宙へとその身を躍らせた。眼下から吹き抜ける黒い刃に三刀を打ち合おうとして、──警告する本能に後ろへと身を仰け反らせた。
鼻先を掠める黒い旋風からは、何故か腐爛した果実の香りが────
それを気にする暇もなく頂点に達した切っ先は、返す刀で彼の頭蓋を砕きに翻る。回避不可、絶命の象徴として風を滑落する剣はだが竜の顎に阻まれる。真横から魔剣を掴んだ左手は、その手首を捻り剣を握る彼女さえ持ち上げた。彼女は剣を離さない。ぐるりと回転する世界で、彼の右眼を逆手に握る白剣で突き貫く。首を捻る彼のその横を切っ先が霞め、頬が浅く切り裂かれた。
視線がかち合う。
其処に殺意は無く其処に敵意は無い。
敵を殺す事が必定なれば其れは既に前提。再認識は不要であり、だから今二人の眼に在るのはただ次はどう斬るかという貪欲に一閃を求める思考のみ。
それも一瞬。持ち上げた彼女を彼はそのまま地面に叩き付ける。びしりと蜘蛛の巣のように灰色の大地が罅割れ、背中を強打した彼女の口からは紅い液体が吐き出された。左手に走る痛みは鈍い。生きながらに腐り行く肉の爛れた痛みがそこにある。見ずとも、傷口が腐敗していることは分かっていた。
追い討ち。突き立てる竜牙は腕を掠めて大地を穿つ。牙はカソックの端を削り肉は削がない。
転がり彼女は半身を起こす。穿つような蹴りを立てた剣で受け止め後退。足跡に"
焔
(
ケン
)
≠フルーンを残し、炸裂する焔を目眩ましに更に後退。
薙ぐのは左の徒手、炎すらも打ち払うその向こうに、白い剣を地に立て手放し、黒い剣を、身を前に傾け腋下から大きく後ろに振り被る、最上の斬り上げを放つべく構えた彼女を見る。
刀身に彫られた一列の英文を彼は眼にし、それが剣の名であると理解する。冠するその名を「
優しい殺人者
(
Kind Cain
)
」。聖人よりも遥かな昔、その原書において弟殺しの烙印を押された者の名を頂くそれを彼女は握り締める。
「──" =I」
惨
(
ザン
)
、という音。
重なる叫びは無音。元より発するべき音声のない、それ故に『究極』と『多様性』の意味を含む"
(
ブランク
)
<求[ンは、腐蝕の魔刃に乗ることで滅の意を以て大地を砕く。ぶちんと聞こえたのは、限界を超えて振られた右腕の筋肉が断裂した音。
巻き上がる飛礫に紛れ立つ直線的な陽炎。うっすらと紅いそれは土煙の中、黒剣の刃から彼の身体の中心を断つように。
それは切断の予兆。未だ来たらぬ未来を、既に決定とする宣告である。
刹那後、その未来が不可視の斬閃となって彼に喰らいつく。其れを名付けるならば災禍が適切だろう。それは等しく万物を壊す概念そのもの。立ち向かうことの意味すらなく、甘受するべき、滅び。
だが、彼がそれを受け入れるつもりは無論ない。
防御は得手ではなく、避けても脚を奪われる。故に、
「────!」
彼もまた無音の吼声を放ち、一歩を前に踏み出した。
故に真っ向から立ち向かう。受けても止まらぬならば、勢いと共に打ち払うのみであると。
三刀を鞘に収め、そしてその一番上に手をかける。
斬閃が来る。コンクリートを砂と風化させ抉りながら。
その前で彼は強く一歩を踏む。自ら振るう膂力を逃がさず、余さず、最大として発揮するために。
「
霜塚
(
しもづか
)
…………!」
抜刀。両の腕に刻まれた呪詛の紋が、みしりとありえない音を立てて黒から赤へと色を転じる。
撃音は刃同士の衝突によるもの。紅い陽炎から無色の破壊そのものとして在る見えない太刀に、霜塚と名を呼ばれた剣が牙を立てる。
だが刀一本で止まる程度のものを、どうして災禍と言えようか。
故に彼は抜いた太刀から手を離し、手だけを納刀して二本目に手を掛けた。
「──
風鈴
(
かざすず
)
……!」
二連。一刀目が弾かれる前に、二本目の牙を同じく穿つ。
腕の赤は既に鮮血の色。凶々しい光を放つそれが、しかし彼の力の証である。
そして、
「────
舞葉
(
まいは
)
!」
三連。都合三本の竜牙が破滅に抗する。一刀一撃全て全力、これを以て尚──災禍の刃は、壊れない。
だから彼は三本目からも手を放す。そして先と同じように、三本揃えて右手で握り、
左手でその峰を殴りつけた。
ばきん、という音は彼の剣ではなく、不可視の斬閃が壊れた音。破壊の概念は霧と壊れて、余波が爛熟した果実の甘い香りとなって頬を撫でていく。
砕いた勢いそのままに、踏み出していた右脚を軸に一回転、横に掠れる視界の中その三刀を投擲、刹那遅れて左足を前に踏み出し、地を蹴った。
己の得物に追い縋る勢いで彼は駆け、──その下を掻い潜り、追い抜いた。
「…………!」
彼女が息を詰める。右手は壊れて使えない。頼りになるのは、この左手の白い剣唯一つ。
彼は膝下の高さで彼女に肉薄し、彼女は大地に剣を突き立てる。そして大鹿=Aと叫ぶよりも疾く、彼は彼女の右を駆け抜けていた。
防壁が展開される。投げられた三本の太刀は四方に弾け飛ぶが彼は既にその後ろ。右脚を杭の如く地に穿ち慣性を殺す。めきめきと骨が軋むがその程度些末事に過ぎぬ。
左手、竜の顎が彼女の頭に伸びる。振り返るがもう遅い。五指はこの上なく確実に、彼女の頭蓋を拘束した。
ぎぢっ、と壊音の一歩手前の音。破砕に至らなかったのは、彼女の左手に握られていた黒塗りの短剣がその紅い紋の浮かぶ腕を刺していたから。
拘束が緩む。その一瞬に再び彼女の左手が閃き、新たな刃がその手に握られる。短剣が空を斬り腕は既に引かれ、しかし切っ先はそれに追い縋る。手首の力だけで短剣を放った。それは力の伴わない浮遊であり、それでも彼の視界を阻むには十二分。
身を落とし拳を引き、そして全力で砲撃する。砲弾の如き鉄拳はくるくると浮いていた短剣を砕き、そして彼女の頭蓋を砕──かない。
拳圧が彼女の髪を激しく波打たせ、纏めていた髪が解けた。
風に長い黒髪が遊ぶ。岩塊をも砕いたそれを、彼女は額でもって受け止めている。
一瞬前を彼は想起する。拳を引き身を落とし、短剣の下から覗き見たもの。彼女のカソックの袖から跳んだ深緑の宝石を、彼女が喰らい嚥下した光景を。
その宝石は彼女の織り上げた結晶である。エメラルドの結晶に大鹿≠フルーンを
十重二十重
(
とえはたえ
)
に投影した防護の宝石。一字一字が意味と魔力を持つルーン文字、その名を受け、護りの願いを織り込まれた宝石はその使命を果たす。
服用による効果時間は約三秒。だがそれは、彼女が彼に一撃を叩き込むには充分過ぎる──!
打ち込まれた拳を引く暇など与えはしない。弾丸装填、
戦神
(
テイワズ
)
≠ニ刻まれたルビーをぎしりと左手に握り締め、雄叫びと共に前に打ち出す。
彼の拳が強力無比な
砲弾
(
シェル
)
であるのなら、彼女の拳は正確無比な
槍型弾頭
(
スピアポイント
)
。
過たず彼の鳩尾を撃ち上げる。手の内で、魔力を使い切った宝石が粉と砕ける。
心臓の鼓動が一瞬止まり、激痛が臓腑を衝破する。血を吐き、その時にはもう彼女の腕は再び
引か
(
コックさ
)
れている。全て一挙動で
燃え滓を排出
(
ディスチャージ
)
、
次弾装填
(
リローデッド
)
、
そして殴る
(
オンザファイア
)
──!
激突音は落雷にも似て。
彼女の拳と、同時に繰り出していた彼の拳が二人の中間点で衝突していた。双方からぶつかり合ったことによってダメージはお互い相当なものがあるはずだった。戦神≠フ強化と加速を得、大鹿≠フ加護がまだ続いていたにも関わらず左腕に伝わる衝撃は彼女に〇・八秒の復帰不可を告げている。
だが──弾性衝突したように元の軌道に弾き返されていた拳を、彼は再び握り直す。その腕に、赤熱した蛇を
のたうたせながら
(
・・・・・・・・
)
。
内心、彼女は舌を巻いた。ダメージがないはずがない。その腕に刻んだ刺青がどんな効果を持つのかは知らないが、少なくとも加護の力は感じられない。
飲み込んだ宝石の効果はもう切れた。次、一撃でも受ければそれが終末である。
だきゅん、と擦過音を残して大気を貫く貫手を首を傾げる動きで避ける。解けた髪が遅れ、彼の手はその中を突っ切り、そして自由を奪われる。
「────!」
蛇のように、彼女の髪が彼の腕に巻きついていた。
その髪の色は既に黒ではなく──それは例えば、雷を内包したかのような白銀──
ひゅっ、と息を吸い、
「Thunderer────!」
神鳴る者=Aその叫びに呼応して、彼女の身体から紫電が迸り世界を漂白する。彼の視界が反転し、全身が焦熱に晒される。
脳細胞すら灼き尽くさんとする雷の中で、彼は手を伸ばした。──天に、在るべき物を求めて。
果たしてそれは叶えられる。掌に落ちる確かな感触をしっかと握り、それを振り落とした。
──
断線
(
ぶつん
)
。振り下ろされた刃は彼女の髪をすっぱりと断ち切り、その瞬間彼は紫電の檻から解放される。
手に握るのは霜塚≠フ名を持つ一振りの鉄塊。投擲され、壁に阻まれ上空に弾かれたそれは、再び彼の手へと戻ってきた。
視界を取り戻す。最初に見たのは彼女の酷く驚いた顔。瞳の色が変わっていることに気づく。緑と紺が、金と紫苑へと。宝石のように美しいそれを見開いて、しかしそれは一瞬にして切り替わる。戦士の顔へと。
彼女の左手が背後へと伸ばされる。そこに在るのは白の聖剣、それを執るより疾く速く、彼は太刀を振るおうとする。だが遅い。全身を焦がした雷は彼の身体に不自由の楔を打ち込んでいる。
故に彼女が剣を引き抜き振り抜くのと、彼の刃が到達するのは同時だった
きぃぃぃ…………………………………………ん
澄んだ音色。荒廃した地にあって、命の遣り取りをした場に於いて、それは美しくすらある音だった。
二人の距離は八間にまで広がっていた。後退の証として、二人の間を巻き上がった砂塵が風に吹かれて掠れていった。
そして、二人はどちらからともなく刃を下ろす。
「──お前、何だ」
最初に声を出したのは彼のほうだった。疲れたように髪を掻き上げながら。それは問いと言うよりは独白のようだった。
「剣使いかと思ったら、剣自体も何かの魔術を込められてるし、短剣も使うし宝石魔術に肉弾戦。おまけに最後のアレは──雷、か? 手数が多いにも程がある」
「気持ち的にはこっちも同じです」
そういう彼女の声は、笑っている。
「どうやって刀三本使うのかと思いましたが、まさか片手とは。それに特別な術は何も施してないのに、三撃──いえ、四撃でアレが打ち破られるとは正直思わなかった」
全力だったんですけどね、と短くなった髪をいじりながら彼女は言った。
「馬鹿力で、しかも投げた刃より疾く走る。その上、二重に強化していた私の拳と打ち合って耐え抜くなんて予想外でした」
「正直まだ痛い。元々殴るほうが
本業
(
・・
)
だから、痛みに慣れてるだけだ」
「それにしたって一番最後、弾き飛ばしたはずの刀が丁度あなたのところに落ちてきたのには驚きましたよ。──計算済みですか?」
「大体の位置は。手の届く範囲に落ちてくれたのはただの運だ」
そうですか、と頷き、彼女は一歩踏み出した。彼も一歩踏み出す。
「使うのはルーンか。お前の双剣、
加速器
(
ブースター
)
としての役割もあるな?」
一歩、一歩。
「自由度は高くないですが。各ルーンに呼応した能力が使える程度です」
「成程。それで、白いほうが護りで、黒いほうが攻めか」
「肯定です。ただ黒いほう──優しい殺人者≠ヘちょっと融通が利かなくて、手加減とかできないんですけど。斬ったものを腐らせ、枯らし、朽ちさせる。攻めというより、破壊専門です」
「道理で左掌の傷が爛れている。──あの匂いもその剣か。腐乱した果実のような……」
ええ、と彼女はまた頷く。二人の距離が零に近づき──すれ違って遠ざかる。
「あなたの剣は? 私の剣のような力はないようですが」
「頑丈なのが取り柄だ。どちらにしろ俺自身魔術は使えんし、俺の腕力についてこれるだけの強度があればそれでいい」
「その腕の呪紋は──」
「肉体強化系。だが少々やり過ぎた。お前の黒い剣と一緒で、融通が利かん」
「難儀ですね」
全くだ、と彼は答えつつ、その辺りに転がっていた風鈴≠ニ舞葉≠回収する。彼女も同様に、振り切って手からすっぽ抜けていた黒い剣を拾い上げていた。
「──では、今日はこれで終いだな」
「はい」
当然のように頷く。
──気が合う者同士だったように思う。
会って──逢って間もないことだが奇妙にもそう感じ、そして相手が同じことを思っていることすら分かっていた。
共感というより共有に近い。意識、雰囲気、思考回路、そういったものがどこかで重なり合っていた。
だからだろう。
彼と彼女が出会ってすぐ殺し合いを始め、そしてこうして、今は互いのことを語り合っている。
戦場の契約。戦士であった二人は、互いを敵と認識し、殺し合った。
殺し合いとは殺し合うことである。故にどちらかが殺されるまで終わることはない。
彼らは生粋の戦士であったが、なのに何故それを止めたのかと問われれば、すぐこう答えるだろう。
今殺すには惜しいと思った、と。
「訊いておこう。名は」
「
神鳥
(
かんどり
)
。名字は亡くしました」
「
竜牙
(
りゅうが
)
という。俺も
姓
(
かばね
)
は何処かに置き忘れた」
「ええ」
背を向けたまま二人は呼気に笑みを乗せた。
「──ではな。次会う時、また敵同士だったならば、また殺し合おう」
「ええ。その時はあなたの
全力
(
・・
)
も見せてください。私も応じましょう」
「愉しみにしておく。精々、それまで死なぬようにな」
「お互いに」
どちらも背を向け歩き出す。
振り向くはずもなかった。
後には、墓場のような瓦礫の荒野が広がるだけ。
sudden-death/discontinued.
She go to the west.
He go to the east.
They are "ThunderBird" and "DragonTooth".
Nobody recite yours unblessd name.
to be continued...? [Y/N]
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